君こそアイドル



「ねえ、今日のHEAVENの打順は?」
「えっとね〜〜5番サードだって。」
「あ〜〜ん、じゃあ1回から見れないかもぉ。」


埼玉県高校野球大会3回戦、黒撰高校と十二支高校の試合。
この試合は、ある訳があって、観客の幅が異常に広かった。

特に、女性層は幅が広い。小学校高学年ほどの女の子から、オバサマ。
下手をすると初老にさしかかってる人物まで。
ふだんなら高校野球に然程の興味を持ってない人々である事は疑いなかった。

彼女たちは最近十二支高校の野球部員である事が発覚した、
大人気モデル、「HEAVEN」を見るために集まっているのだった。



「うっわ〜すっげえ人多気〜〜〜(@△@)」
「人数分入れんのか?」
「せっかく試合(天国)見にここまで来たってのに入れねえじゃシャレんなんねーっすね。」
「やっぱりすごいべ…。」
「全く…喧しい事だ。」
真面目に試合の偵察に来ていた華武高校の面々も。


「うっひゃ〜〜これ全部ヘヴンのファンアルか〜?」
「これでも少ない方よぉ?どっかで制限かけたんじゃない?」
「同感 HEAVEN 配慮 」
「それにしてもすごいね〜〜決勝戦でもこんなに集まってるの見たことないぞ〜〜?」
同様に真面目に試合を見に来たセブンブリッジ学院の面々も。


「おいおい、何なんだよこの客の多さはよ〜〜。」
「あれ?うどん先輩知らないの?今日の試合のメンバーにもでるの「HEAVEN」がいるんだよ!
 おれこないだにいちゃんと会いに行ったモンね。」
「な、何だって?!あの流麗で華麗な姿に立ち居振る舞いをもって若くして海外で活躍している
 現代日本の美の象徴とされる「HEAVEN」だって?!」
「……それ、すごい…ね。」
「………。」
本日の十二支高校の対戦相手、黒撰高校の面々も。



この客の多さに驚き、辟易していた。
勿論それ以上に、天国の姿を見たいと言う想いがあるから、ここにいるのだけれど。



さて、そんな噂の渦中の「HEAVEN」こと猿野天国はというと。
せっかく久しぶりに十二支のメンバーが勢ぞろいしての試合だというのに、浮かない顔をしていた。


そんな彼に、声をかけたのは先ごろケガが完治し、部に復帰した主将の牛尾である。
「どうしたんだい?猿野くん。
 試合前だというのに沈んでいるようだけど…。」

「あ…いえ…また、こんな騒がしい事になって悪いなって…。
 すみません。ホントに…。」

野球に興味のない観客を呼び寄せてしまった事に責任を感じているらしい天国の様子に、
牛尾は優しく微笑んだ。

「君が気にする事じゃないよ。
 試合をする以上は観客は居るのが当たり前だものね。」

「はあ…。」

「そんな事より、試合に集中するんだよ?
 ね…?」
そう言いながら牛尾は優しく天国の頬に触れた。

その瞬間。


「そこのクラ○ドヘア!!気安くHEAVENに触るんじゃねえ!!」
「だめええ、HEAVENは私たちの天使なの〜〜〜〜!!!」

観客席から天国のファンのブーイングが響く。
これには流石の牛尾も驚いたようだ。


「…す、すごいね…。(クラ○ドヘア…?)」

しかし様子が変わったのは天国のほうだった。

「あ、あいつら…。
 すみません、主将…。」

「いや、僕は別…に…?
 さ、猿野くん?」

牛尾の目に移ったのは明らかに怒りのオーラ。
そのオーラの中で、天国はゆらりと腰を上げた。

「ちょっとばかし席はずします。
 試合までには戻りますんで。」

にっこり。と文字が見えそうなほどにカタチどおりの笑顔を牛尾に向けると。
天国は監督の制止も振りきって、ベンチから姿を消した。




############

その間。

観客席においては、真面目に野球を見に来た高校球児と、
真面目に一人を目当てにこの場に来たファンが同レベルで争っていた。


「だから!HEAVENはアタシたちファンのだって言ってんの!」

「な〜に言っちゃってるワケ?
 大体アンタらが求めてるのなんて天国の虚像じゃん?
 本当のアイツの事知ってるとか思ってるのかよ?」

「聞き捨てならねーな!!オレたちが何年HEAVENのファンやってると思ってるんだ!?」

「へぶんである猿野を知って想っているわけではない。
 第一今日は「猿野天国」が試合をしに来ているのだ。ファンが騒ぐのは筋が違うのではないか?」

「お子様がナマイキを言ってるんじゃないよ!
 虚像であろうと本物であろうと彼のことを知りたいし会いたいから私たちはここに来てるんじゃない!」

「知りたいって気持ちは分かるけど〜〜だからっててんごくくんを私物扱いするような
 言い方されちゃうとね〜〜。
 びみょ〜〜にムカついちゃったりするわけなんだけどね〜〜。」

「何言ってんのよ私物化してるのはあんた達の方でしょ?!
 大体HEAVENは、本来なら世界を駆け回ってる存在よ!?
 それを…。」

「あらあ、本人の人生の選択にケチをつけるなんて随分身勝手な愛ね。
 自分本位なだけじゃストーカーと変わらなくなっちゃうわよ?」

「何ですって〜〜〜?!」


男女入り乱れての一触即発状態なその時。



「馬鹿言ってんじゃないわよ!!天国は昔からアタシのものよ!!」


「「「「「「何だと?!!?!!」」」」」

本気で聞き捨てならない声に、一同が一斉に振り向くと。


『『『『『……………。』』』』』

そこに居たのはおなじみ天国と同じ顔のおさげの美少女。
最もすぐに気づいたのは高校球児の諸君で、ファンの方は分かっていなかった。
いつもより入念にメイクが施されているため、「HEAVEN」とイメージが重ならなかったようだ。


「なに…やってんの、あまく…んがっ!!」
最初に出た華武高校1年、御柳芭唐くんの声を力づくで押さえ込んだのは同校3年、屑桐無涯くん。

(何するんすか、屑桐さん。)
(黙ってろ、あいつらはまだ気づいていないようだ。)


「あら、メイク上手いのね〜さすが。」
「紅印…そこに感心するところが流石だよ〜…。」
ほんのりボケかますのはセブンブリッジ学院3年、鳥居剣菱・中宮紅印バッテリー。

で、その視点のさきのエセお嬢さんは、弁論を続けていた。


「どいつもこいつも天国の意見も聞かず勝手に騒ぎ立てて、そんなこと彼は望んでいないわよ!!
 第一、前の試合で言ったでしょ?!
 今は「HEAVEN」じゃないって!」

「……。」

「別にファン止めろとかは言わないわよ、アンタたちが居てこそのHEAVENなんだもの。
 応援してくれるのは嬉しいよ?
 で・も・ね?」

ふと、彼女の表情が変わった。

「彼に少しくらい彼自身を楽しませてあげたって構わないっしょ?」



###########

「ずいぶんと静かになったね〜〜。」

「馬鹿者、のんきな事を言っている場合か?」

「そうよぉ、あの子たち一時のテンションだけじゃなくて冷静になっちゃったじゃないの。」

「冷静ねえ…。」

一連の騒動が終わり、試合が始まった。
観客席には、何故か仲良く一緒に座る華武高校生とセブンブリッジ学院生。


やや疲れた表情で、天国の登場を見守っている。


そして。

『5番サード、猿野くん。』


ワアアアァアアアア


「あー、ちくしょ。
 「天国」のあんな可愛いとこさらしちまうなんてなー。」

「後悔しても始まらんがな。」


「これでてんごくくんもアイドルになっちゃったね〜〜。」

「あーあ、カレだけは私たちのアイドルだったのにぃ。」


「「猿野くーんっ!!」」

「打てよ〜〜!!」

観客席に響き渡る声は、「猿野天国」を呼んでいた。
あの瞬間を魅了したのはカレだったから。

あの時に本音をさらした綺麗な君。


君こそアイドルだったから。




                                             END



…つくづく締め方がワンパターンですみません。S.青沢です。
愛魅さま、長く長くお待たせいたしましてほんとうにすみませんでした!
これで今の所モデル天国シリーズは最終です。
もう書かないっつーわけではなく、単にこれ以降リクがないので(苦笑)
またいただいたら書きます。多分。
今回は初心に戻ってギャグちっくにしてみました。
最近「銀魂」読んでるんでどっか影響出てるなと思いつつ、相変わらず変な文ですがね。

愛魅さま、改めましてリクエスト有難うございました!
本当に本当にお待たせしまして申し訳ありませんでした!!

読んでくださったら嬉しいです…。


ではでは、今日はこの辺で。


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